ルーヴル宮殿内「装飾芸術美術館」の表通りに面した一角、立像が立ち並ぶ荘厳なオール・デ・マレショー(Hall Des Maréchaux)にて、墨アート画家・丹羽名甫氏の個展が開催されました。
■丹羽 名甫 パリ「装飾芸術美術館」個展〔墨の響き in ルーヴル宮殿〕
会期:2023年10月28日(土)~29日(日)
会場:装飾芸術美術館
会場は、大理石のモザイク床と8mの堂々たる天井高が特徴のホール。日本の、優美で雄大な自然にインスピレーションを受けた氏の悠々とした作品30点超との融合で生み出された優雅な空間が、訪れた多くの人々を深く魅了しました。
初日の夜にはヴェルニサージュ(オープニングパーティー)も開催され、来場者は作品とコラボレーションした美しい音楽と、日本から特別に用意されたワインに酔いしれました。
ヴェルニサージュには駐フランス日本国特命全権大使 下川 眞樹太氏のほか、アート誌代表もお越しになり、お祝いと称賛のコメントをいただきました。
■ゲストコメント:アート誌『Univers des Arts』代表取締役 ティボー・ジョーセ氏
ヴェルニサージュでは、ジョーセ氏より、作品について3つの観点から考察をいただきました。
―作品の現代性
丹羽名甫さんの作品は、日本の伝統的な歴史や日本文化の文脈にあるものであるということは、私たちがよく見聞きする通りです。彼女の作品は同時に、西洋の油絵の文化の一部を内包しています。私は、少し違った角度から考えてみることを提案しようと思います。日本の書道が、20世紀頃にどのように進化していったか?を振り返ってみると、実は、その進化の大部分がパリで行われていたことはご存知でしょうか。その進化は、20世紀初頭にアヴァンギャルドの文脈で起こりました。つまり、水墨画と西洋絵画を融合させるというアイデア、野心とまではいかないかもしれませんが、その考えが生まれたのは、20世紀初頭のパリだったのです。そう考えると、丹羽名甫さんの作品は、古典的/伝統的あるいは現代的のどちらに振り分けられるものでもなく、本来の意味で現代的、つまり21世紀初頭を飾る、前世紀からのいまだ実現されぬ芸術的探究に挑む、真の現代的な作品であることに気づくでしょう。それが、私が最初にお伝えしたい点です。
―作品の様式と武道
2つ目のポイントは、様式的なところについてです。彼女の作品には、常に垂直性と水平性の対立が数多く見られ、それが一定程度、彼女の表現の基礎となっていることにはお気づきでしょう。ここで再び私は日本について触れようと思うのですが、おそらくすでにご存知のように、日本だけでなく韓国や中国などアジアにおける書道と筆の使用は、歴史的に見て、武道と非常に密接に結びついています。そして、例えば中世の日本や朝鮮半島の古文書を読むと、筆の使い方が、剣の使い方に例えられることが多いのはご存じでしょうか。筆で引く線は、剣の刃に似ています。みなさんの中に居合道をやったことがある人がいるかどうかわかりませんが、その精神に通じるものがあります。垂直性と水平性というのは、すべての武道が明確に示す通り、人は大地に根を下ろすものであり、大地に支えを見出し、そこに剣の垂直性がある、という思想を反映しています。丹羽名甫さんは、地面に敷いた紙の上に立って筆を扱うので、多くの仕事を地面で行っています。これを掘り下げていくと、なかなか面白いものがあると思います。つまり、60年のキャリアを経て、2023年の今、墨を扱うアーティストでいるためには、ちょっとした武士でなければならないということが、もしかしたら言えるかもしれません。
―作品における「具象化」
多くの評論家が、これはコンテンポラリー・カリグラフィであり、抽象化されたカリグラフィだと言っていました。その解釈と受け取り方もあるのかも知れませんが、私の考えとしては、私たちが丹羽名甫さんの作品を理解するのに有効なのは、むしろ「具象化」という視点です。現実を抽象化しているのではなく、具象的に造形しているのです。作品は、現実を利用して別のもっと興味深いことを語り、現実ではない何かを通して現実について語っています。これはつまり、詩の定義と同じです。現実にあるものを、歪めて変形させるのではありません。抽象的なものを人為的に作り出すのでもありません。存在するものを取り出して、それを分解し、新しいものを再創造しているのです。
■来場者の声(一部抜粋)
・シンプルに、美しいです。純粋さを感じます。
・色に注目させるもの、線に注目させるものなど、見せたい点が作品によって違い、面白いです。
・モダンなだけでなく、書道の伝統的な表現からの影響を感じます。
・筆の大胆な動き、回転が好きです。
・作品から、アーティストのエネルギー、女性的な強さを感じます。
・特殊な制作方法によって、独特な質感、奥行が生まれていて、素晴らしいです。
・自分が作品を制作する際には、どこまで描き込むか、どこでやめるかということが一番の課題です。マダム丹羽の作品はそのバランスがすばらしく、勉強になりました。
初日に2点作品の購入があったほか、会期中相次いで購入検討やホテルへの設置の話が出るなど、大きな反響が寄せられ、世界中の様々な感性、様々なシーンに求められる作品であることが、はっきりと証明されました。
書を発展させ、「墨アート」としての表現を追求する氏の集大成ともいえる展覧会が、秋まっ盛りのパリに、大きな足跡を残しました。